益田競馬場「日本海特別・ラストラン特別」観戦記

益田競馬場 2002年8月16日開催


はじめに

益田競馬場。日本一小さな競馬場としてしばしばマスコミでも紹介され、競馬ファンでなくとも知られている、最も有名な地方競馬場かもしれない。
昔の競馬場の雰囲気がそのまま残っていると言われ、競馬ファンの中でも半ば別格視されているように思う。
この不景気な世の中、中津、新潟と地方競馬で経営難からの閉鎖が相次ぎ、次はどこかの嫌な話題があったところ、遂にそのターゲットが益田競馬に定められたのは、この7月。
年末まで開催かという当初の話もどこへやら、8月になると盆開催での閉鎖が発表された。
仮にも公的施設でそれはないだろうと高をくくっていた昨年3月の中津競馬のあっという間の閉鎖劇が頭に浮かび、これを見逃しては後悔が残るのみと思い、ちょうど盆休み期間ということもあり、思い切って、益田競馬の最終開催を観戦することとした。


…益田ってどこやねん

さて、観戦を決定したものの、道中がさっぱりわからない。まず何がわからんといって実は益田市がどこにあるのかよくわかっていない。
学生時代は地理が得意科目で、高校野球ファンの私でも島根といえば、松江、出雲、浜田が精一杯。まして、行き方などわかる訳もない。
しかし、PCの鉄道ソフトで難なく最短経路を調べることができた。
大阪からは小郡まで新幹線で行き、小郡で山口線に乗り換えて、山陰本線との分岐点である益田まで行くのがベストのようである。
一旦、山口県まで入って、戻るのかとしばし呆れた後、ダイヤを調べてまたも愕然。
行きは接続もよく、山口線の特急もあるので4時間ほどで到着するが、帰りの山口線は鈍行乗車で、乗り継ぎも悪く、6時間はかかる見込み。
正真正銘の1日仕事である。
やれやれと思いつつ、盆休みで切符の入手が心配されたものの、なんとか確保でき、いざ当日へ。


益田競馬場へ

さて、お盆も真っ只中の8月16日。朝も早い5時半に起き、新大阪駅へ。山陽新幹線ひかりRailStarに乗り約2時間で小郡駅到着。小郡駅で山口線に乗り換え。
ここで、園田サイトの山ちゃんと前田くんと一緒になる。二人とも益田ラストランの急遽観戦組である。
山口線スーパーおき号に乗ると、お盆帰省客に混じって、益田競馬観戦組と思しき乗客の姿が見られる。
山口、津和野といった有名観光地を通り過ぎ、1時間40分ほどかけて、益田に到着。益田駅からタクシー乗車で益田競馬場に到着したのは、10時40分頃。大阪から約4時間の行程であった。


最初で最後の益田競馬場

既に観戦暦がある前田くんの誘導で益田競馬場に入場。
入場するまでもなく、あれ?と思ったのは目新しいスタンド。手元のガイド本「競馬場に行こう」には記載されていなかった施設。
前田くんに尋ねるとやはりできたばかりだという。かなりの投資もしていたんだなあと思いやる。
場内はレース前だというのに既にかなりの人込み。新スタンドの指定席は既に完売。一般席で座席を探すが、涼しい3階屋内席はやはり一杯。
やむなく、屋外席を確保するも、この夏最高といわれる暑さに閉口、建物内でスペースを確保する。

さて、競馬場内散策。予想紙買うために地下通路を通って馬場内へ。予想紙販売スタンドは一旦外に出たところにある。
名物予想紙の「シーホース」を購入するが、販売スタンドではおばちゃんが顔なじみの客と最後のお別れをしている。こういうところを見ると、しみじみ最後の開催日なんだなあと実感する。
競馬場内をカメラ撮影しながらうろうろしていると、同じような姿の客ばかり。加えて、明らかに益田競馬場いや競馬場に初めて来たと思われる近辺の方々の姿。

競馬場施設はと見れば、パドックはすり鉢状で上から見る形。
施設の方は歴史を感じさせる古さはあるものの、トイレなど意外なくらい観客施設は手が加えられている。一方、装鞍所などの古さは年代物か。このあたり、相当ファンサービスには力を入れていた模様。
コースの方は小さい小さいと言われるが、1周1000mは旧園田競馬場、福山競馬場と同じで、地方競馬場に馴染んできた私には全く違和感はない。
第一に笠松競馬場に比べれば余程立派なコース、内馬場である。
なお、例によって、大型映像装置もなければ、場内映像装置もなく、生が頼り。
場内巡りをしているうちにいよいよレース開始。


さて、レース

益田競馬場は6枠8頭だて。馬券は馬番発売がなく、単・複のほかは枠番連勝単式・複式の発売のみである。
ここの特徴は何と言ってもマークカードがなく、昔ながらの申込用紙、口頭による発売をしていること。窓口には、つり銭を出さない旨の表示さえある。もっとも、さすがにつり銭は出していたが。馬券を買うと、昔の園田競馬と同じスタイルで、ちょっと懐かしい。

レースの方は1Rがアラブの2歳戦。明日からどうなるんだろうと思いやる。
馬券の方は、2Rから買い始めると、当たる当たる。予想紙の印とパドックでの直感だけで1〜2点買いするが、よく的中するうえ、結構配当がついている。競馬初心者の客が予想紙も見ずに適当に買っているんではないかと思うほど、人気が分散している。この結果、6Rまでで5戦3勝でほぼ投資額の倍になる。こんなことは遠征では初めてのこと。


場内混雑ぶり

場内の方は、内馬場の駐車場が徐々に一杯になっていき、観客もかなりの数に。結果的には4000人を越え、益田競馬史上最高の入りに。
昼飯を自宅のものと大してかわらん丼ものを随分待たされて食べたが、これまでにない観客の多さに飯屋さんがついていけていない。
これは、馬券売り場でも同様で、園田競馬場同様に、締め切りが延びる一方。しかし、この日初めての客たちはそれも一興かと特に騒ぎ立てる様子もなし。

私たちのいる冷房のきいた建物内も人ごみでぎっしり。コース沿い窓際で確保した場所も徐々に狭くなっていく。
そのうち、山ちゃんが、傍らの地元のばあちゃんとお孫さんの女の子と親しく話をかわすようになる。どうやら最後の益田競馬を見せにつれてきたらしい。
でも、ばあちゃん、競馬の方は全く初めてなのか、全点買いの馬券を前田くんに買ってもらって、当たったと言って喜んでいる。そのうち、女の子自身が100円玉握って窓口に並んで馬券を買っている。
まさに大らかな益田競馬。多分、いつもは年金暮らしのじいちゃんばあちゃんが1日1000円くらい買って遊んで帰るところなんだろうなあ。


メインレースの日本海特別

さて、メインレースは益田競馬場一番のレース、日本海特別。このレースには、目下益田最強馬のノアに、あのニホンカイユーノスの妹ニホンカイマリノが登場。レース的にも注目。
パドックを見るが、通常時がわからないので、例によって先入観でノアが一点抜けている感じ。
レースの方は2200mの長丁場。カンカン照りで固くなったコースを土埃を上げながら各馬が懸命に走る。
ニホンカイマリノが先行するも、終盤ノアが余裕で抜き去り優勝。修行中の高知の堅田騎手が最後の重賞制覇を果たした。

と、ここでメインスタンド前で益田競馬お別れセレモニーが始まる。おいおい、日本海特別の表彰式はどうなってるんやと思う。
さて、市長の最後のあいさつから始まり、市役所関係者、競馬場関係者のあいさつが続く。市長あいさつは淡々としたものだったが、厩舎代表の方は言葉少なにくやしそうな言葉。
なお、日本海特別に勝ったノアの口取りなどは、コース内で平行して行われた。


そしてラストラン

当初のタイムスケジュールではレース終了後にセレモニーのはずだったので、突然のセレモニーに、最終レースは一体いつ始まるんだという状態に。
というざわつたい雰囲気の中、いよいよ益田競馬最後のレース、その名も「益田競馬ラストラン特別」が始まる。
レース自体は相変わらずざわついた状況の中行われ、グリーンジョーの優勝。
レースが終わると、検量検査もそこそこに、各騎手がメインスタンド前に整列。全員の礼とともに、鞭をスタンドに放り込む。
最後に観客にコースを開放し、益田競馬はその最後の時を終えた。


帰路

私は最後のレースが終わると同時に、競馬場を後に。競馬場前のタクシー乗り場から益田駅へ。
運転手さんから競馬も終わりやなあという話で、乗車中、益田市の状況をいろいろと聞く。起死回生策の大学誘致でもめたようですな。
さて、帰路は鈍行列車であるが、入線した列車は1両編成。この列車に約3時間乗って小郡へ。
小郡から新幹線乗り換えだが、満席のため、こだまに乗車。快適ではあったが、またまた約2時間かけて岡山へ。ここでのぞみに乗り継いで新大阪。自宅に帰ったのは12時過ぎであった。

1日でこれだけローカル線に乗ったのは初めてで、競馬場か列車の旅のどちらがメインかわからないような益田競馬行き。
しかし、益田競馬最後の日として記憶に残ることは疑いようのない一日であった。
その後、佐賀競馬に移ったノア、福山競馬に移ったグリーンジョーなど益田在籍馬、大井競馬に移った御神本騎手など益田在籍騎手の今後の活躍を祈りたいと思う。